しも |
霜 |
冒頭文
『年寄には珍らしい』と、老婆の大食が笑ひ話に、母屋の方の人達の間で口にのぼるやうになった頃は最早老婆もこの家の人達に厭(あ)きられはじめてゐた。つまりそれ丈役立たぬ体となったのである。その事は老婆自身も無意識のうちに感じてゐて何彼につけて肩身狭さうにした。時折米を持ちに行く穀倉の戸を気兼さうにあけた。『容れ物そこへ置いてお出でな、後で持って行ってあげるで……』孫嫁に当る繁子がさう云って倉の中の仕事
文字遣い
新字旧仮名
初出
「つばさ 第二巻第八号」つばさ発行所、1931(昭和6)年9月1日
底本
- 定本金田千鶴全集
- 短歌新聞社
- 1991(平成3)年8月20日