りんしつのきゃく
隣室の客

冒頭文

一 私は品行方正な人間として周囲から待遇されて居る。私が此所にいふやうな秘密を打ち明けても私を知つて居る人の幾分は容易に信じないであらうと思はれる。秘密には罪悪が附随して居る。私がなぜそれを何時までも匿して居ないかといふのに、人は他人の秘密を発くことを痛快とすると同時に自分の隠事をもむき出して見たいやうな心持になることがある。そこには又微かな興味が伴ふのである。 私は山に遠い平

文字遣い

新字旧仮名

初出

「ホトトギス」1910(明治43)年9月号

底本

  • ふるさと文学館 第九巻【茨城】
  • ぎょうせい
  • 1995(平成7)年3月15日