ばくやくのはなかご |
爆薬の花籠 |
冒頭文
祖国(そこく)近(ちか)し 房枝(ふさえ)は、三等船室の丸窓(まるまど)に、顔をおしあてて、左へ左へと走りさる大波のうねりを、ぼんやりと、ながめていた。 波の背に、さっきまでは、入日の残光(ざんこう)がきらきらとうつくしくかがやいていたが、今はもう空も雲も海も、鼠色(ねずみいろ)の一色にぬりつぶされてしまった。 「ああ」 房枝は、ため息をした。つめたい丸窓のガラスが、房
文字遣い
新字新仮名
初出
「少女倶楽部」1940(昭和15)年6月~1941(昭和16)年6月号
底本
- 海野十三全集 第7巻 地球要塞
- 株式会社三一書房
- 1990(平成2)年4月30日