でんきちのかたきうち
伝吉の敵打ち

冒頭文

これは孝子伝吉の父の仇(あだ)を打った話である。 伝吉は信州(しんしゅう)水内郡(みのちごおり)笹山(ささやま)村の百姓の一人息子(ひとりむすこ)である。伝吉の父は伝三と云い、「酒を好み、博奕(ばくち)を好み、喧嘩(けんか)口論を好」んだと云うから、まず一村(いっそん)の人々にはならずもの扱いをされていたらしい。(註一)母は伝吉を産(う)んだ翌年、病死してしまったと云うものもある。あるい

文字遣い

新字新仮名

初出

「サンデー毎日」1924(大正13)年1月

底本

  • 芥川龍之介全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年2月24日