とちのみ
栃の実

冒頭文

朝六(あさむ)つの橋を、その明方(あけがた)に渡った——この橋のある処(ところ)は、いま麻生津(あそうづ)という里である。それから三里ばかりで武生(たけふ)に着いた。みちみち可懐(なつかし)い白山(はくさん)にわかれ、日野(ひの)ヶ峰(みね)に迎えられ、やがて、越前の御嶽(みたけ)の山懐(やまふところ)に抱(だ)かれた事はいうまでもなかろう。——武生は昔の府中(ふちゅう)である。 その年

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1924(大正13)年8月

底本

  • 鏡花短編集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1987(昭和62)年9月16日