じんみんせんせんへのいっぽ
人民戦線への一歩

冒頭文

うちを出て、もよりの省線の駅までゆく途中の焼跡にも、この頃はいろいろの露店が出はじめた。葭簀(よしず)ばりの屋台も、いくつかある。 きのう、霜どけのぬかるみを歩いてその通りをゆくと、ちょうど八百やが露店を出していた。人参、葱、大根が並んでいる。鉢巻した売りてが、大きい一本の大根をぶら下げて、あっちからこっちへと積みかえながら、 「さア、この大根だと、一本十六円」 そう呼んでい

文字遣い

新字新仮名

初出

「サンデー毎日」1946(昭和21)年2月3日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十六巻
  • 新日本出版社
  • 1980(昭和55)年6月20日