くろがねてんぐ
くろがね天狗

冒頭文

師走三日 岡引(おかっぴき)虎松(とらまつ)は、師走(しわす)の三日をことのほか忌(い)み嫌(きら)った。 師走の三日といえば、一年のうちに、僅か一日しかない日であるのに、虎松にとってはこれほど苦痛な日は、ほかに無かったのであった。そのわけは、旗本の国賀帯刀(くにがたてわき)の前に必ず伺候(しこう)しなければならぬ約束があったからである。 その年も、まちがいなく師走に入っ

文字遣い

新字新仮名

初出

「逓信協会雑誌」1936(昭和11)年10月

底本

  • 海野十三全集 第4巻 十八時の音楽浴
  • 三一書房
  • 1989(平成元)年7月15日