1 春だった。 花は爛漫(らんまん)と、梢に咲き乱れていた。 時が歩みを忘れてしまったような、遅い午後—— 講堂の硝子窓のなかに、少女のまるい下げ髪頭が、ときどきあっちへ動き、こっちへ動きするのが見えた。 教員室から、若い杜(もり)先生が姿をあらわした。 コンクリートの通路のうえを、コツコツと靴音をひびかせながらポイと講堂の扉(ドア)をあけて