ぐんようそ |
軍用鼠 |
冒頭文
探偵小説家の梅野十伍(うめのじゅうご)は、机の上に原稿用紙を展(の)べて、意気甚(はなは)だ銷沈(しょうちん)していた。 棚の時計を見ると、指針は二時十五分を指していた。それは午後の二時ではなくて、午前の二時であった。カーテンをかかげて外を見ると、ストーブの温か味で汗をかいた硝子(ガラス)戸を透して、まるで深海の底のように黒目(あやめ)も弁(わ)かぬ真暗闇が彼を閉じこめていることが分った
文字遣い
新字新仮名
初出
「新青年」博文館、1937(昭和12)年4月
底本
- 海野十三全集 第4巻 十八時の音楽浴
- 三一書房
- 1989(平成元)年7月15日