ふゆのおんな |
冬の女 |
冒頭文
女が一人籬(まがき)を越してぼんやりと隣家の庭を眺めてゐる。庭には数輪の寒菊が地の上を這ひながら乱れてゐた。掃き寄せられた朽葉の下からは煙が空に昇つてゐる。 「何を考へていらつしやるんです。」と彼女に一言訊ねてみるが良い。 彼女は袖口を胸に重ねて、 「秋の歌。」 もし彼女がそのやうに答へたなら止(と)めねばならぬ。静に彼女の手を曳いて、 「あなたは春の来るのを考へねば
文字遣い
新字旧仮名
初出
「改造」1924(大正13)年12月1日発行、第6巻第12号
底本
- 定本横光利一全集 第二巻
- 河出書房新社
- 1981(昭和56)年8月31日