もうちょう
盲腸

冒頭文

Fは口から血を吐いた。Mは盲腸炎で腹を切つた。Hは鼻毛を抜いた痕から丹毒に浸入された。此の三つの報告を、彼は同時に耳に入れると、痔が突発して血を流した。彼は三つの不幸の輪の中で血を流しながら頭を上げると、さてどつちへ行かうかとうろうろした。 「やられた。しかし、」とFから第二の報告が舞ひ込んだ。 「顔が二倍になつた。」とHから。 「もう駄目だ。」とMから来た。 ——俺は下から——と

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝時代」1927(昭和2)年4月1日発行、第4巻第4号

底本

  • 定本横光利一全集 第二巻
  • 河出書房新社
  • 1981(昭和56)年8月31日