ななかいのうんどう
七階の運動

冒頭文

今日は昨日の続きである。エレベーターは吐瀉を続けた。チヨコレートの中へ飛び込む女。靴下の中へ潜つた女。ロープモンタントにオペラパツク。パラソルの垣の中から顔を出したのは能子である。コンパクトの中の懐中鏡。石鹸の土手に続いた帽子の柱。ステツキの林をとり巻いた羽根枕、香水の山の中で競子は朝から放蕩した。人波は財布とナイフの中を奥へ奥へと流れて行く。缶詰の谷と靴の崖。リボンとレースが花の中へ登つてゐる。

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝時代」1927(昭和2)年9月1日発行、第5年第9号

底本

  • 定本横光利一全集 第二巻
  • 河出書房新社
  • 1981(昭和56)年8月31日