ひとつぶのあわ |
一粒の粟 |
冒頭文
○ 或る芝生に、美くしく彩色をした太鼓が一つ転っていた。子供が撥を取りに彼方へ行っている間、太鼓は暖い日にぬくまりながら、自分の美くしさと大きさとを自慢していた。 すると丁度その時頭の上を飛んで行った小鳥が、何かひどく小さいものを彼の傍に落して行った。 気持の好い空想を破られ、それでムッとして見ると、薄茶色の粟が一粒いる。自負心の強い太鼓は忽ち小癪な奴だと思った。俺が折角いい
文字遣い
新字新仮名
初出
「解放」1920(大正9)年3月号
底本
- 宮本百合子全集 第十七巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年3月20日