げさくざんまい |
戯作三昧 |
冒頭文
一 天保二年九月の或午前である。神田同朋町(かんだどうぼうちやう)の銭湯(せんたう)松の湯では、朝から不相変(あひかはらず)客が多かつた。式亭三馬(しきていさんば)が何年か前に出版した滑稽本の中で、「神祇(じんぎ)、釈教(しやくけう)、恋、無常、みないりごみの浮世風呂(うきよぶろ)」と云つた光景は、今もその頃と変りはない。風呂の中で歌祭文(うたざいもん)を唄つてゐる嚊(かかあ)たばね、上り場
文字遣い
新字旧仮名
初出
「大阪毎日新聞」1917(大正6)年11月
底本
- 現代日本文学大系 43 芥川龍之介集
- 筑摩書房
- 1968(昭和43)年8月25日