すきとおるあき |
透き徹る秋 |
冒頭文
空を、はるばると見あげ、思う。何という透明な世界だろう。 晴れ渡った或る日、障子を開け放して机に向っていた。何かの拍子に、フト眼が、庭の一隅にある青桐の梢に牽かれ、何心なく眺めるうちに、胸まで透き徹る清澄な秋の空気に打たれたのだ。 平常私の坐っている場所から、樹は、丁度眼を遣るに程よい位置にある。去年の秋、引越して来てから文学に行きつまった時、心が沈んだ時、または、元気よく嬉し
文字遣い
新字新仮名
初出
「婦人倶楽部」1921(大正10)年12月号
底本
- 宮本百合子全集 第十七巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年3月20日