しょうけい ふるきしがいのかいそう |
小景 ふるき市街の回想 |
冒頭文
その街は、昼間歩いて見るとまるで別な処のように感じられた。 四方から集って来た八本の架空線が、空の下で網めになって揺れている下では、ゲートルをまきつけた巡査が、短い影を足許に落し、鋭く呼子をふき鳴しながら、頻繁な交通を整理している。 のろく、次第にうなりを立てて速く走って行く電車や、キラキラニッケル鍍金の車輪を閃かせ、後から後からと続く自転車の列。低い黒い背に日を照り返す自動車
文字遣い
新字新仮名
初出
「八つの泉」1923(大正12)年12月発行
底本
- 宮本百合子全集 第十七巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年3月20日