そぼくなにわ |
素朴な庭 |
冒頭文
私は東京で生れた。母は純粋な江戸っ子である。けれども、父が北国の人で、私も幼少の頃から東北の田園の風景になれている故か、私の魂の裡にはやみ難い自然への郷愁がある。それも、南国の強烈な日光は求めず、日本の北の、澄んだ、明るい爽かな春、夏秋が何とも云えずに懐しい。冬の荒い北風、幾度かその上に転んだ深い雪、風の雨戸に鳴る音さえ、陰気ではあるが私にとって決して厭わしい思い出ではない。 春が来て、
文字遣い
新字新仮名
初出
「山陽新報」1924(大正13)年4月9、10日号
底本
- 宮本百合子全集 第十七巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年3月20日