もじのあるしへん |
文字のある紙片 |
冒頭文
「あの事があってから、もう三ヵ月になる。けれども、私の心持は当時にくらべてちょっとも明るくなっていない。それどころか、却って陰鬱さを増しているとさえ云える有様だ。今日のような天気の時には、特に堪らない。風も吹かず、日光も照らず、どんより薄ぐもりの空から、蒸暑い熱気がじわじわ迫って来る処に凝っと坐り、朝から晩まで同じ気持に捕えられていると、自分と云うものの肉体的の存在が疑わしいようになる——活きて、
文字遣い
新字新仮名
初出
「文芸春秋」1924(大正13)年9月号
底本
- 宮本百合子全集 第十七巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年3月20日