ながさきのいんしょう (このいっぺんをえぬし、ええしにおくる) |
長崎の印象 (この一篇をN氏、A氏におくる) |
冒頭文
不図眼がさめると、いつの間にか雨が降り出している。夜なか、全速力で闇を貫き駛っている汽車に目を開いて揺られている心持は、思い切ったような陰気なようなものだ。そこへ、寝台車の屋蓋をしとしと打って雨の音がする。凝っと聴いていると、私はしんみりした、いい心持に成った。雨につれて、気温も下り、四辺の空気も大分すがすがしく軽やかになったらしく感じる。——一人でその雨に聴き入っているのが惜しく、下に眠っている
文字遣い
新字新仮名
初出
「改造」1926(大正15)年8月号
底本
- 宮本百合子全集 第十七巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年3月20日