くがつのあるひ
九月の或る日

冒頭文

一 網野さんの小説集『光子』が出たとき私共はよろこび、何か心ばかりの御祝でもしたいと思った。出版記念の会などというものはなかなか感情が純一に行かないものだし、第一そういう趣味は網野さんから遠い故、一緒に何処かで悠(ゆっ)くり御飯でも食べて喋ろう。夏休みの間からたのしみにしていた。沓掛から、きっちり予定通り八月三十一日に網野さんは帰って来た。一日の晩、八時頃、私共は一つ机のところにかたまって一

文字遣い

新字新仮名

初出

「時事新報」1926(大正15)年9月21、22、25、26日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日