紫苑が咲き乱れている。 小逕の方へ日傘をさしかけ人目を遮りながら、若い女が雁来紅を根気よく写生していた。十月の日光が、乾いた木の葉と秋草の香を仄かにまきちらす。土は黒くつめたい。百花園の床几。 大東屋の彼方の端で、一日がかりで来ているらしい前掛に羽織姿の男が七八人噪いでいる。 「おや、しゃれたものを描くんだね、三十一文字(みそひともじ)かい」 楽焼の絵筆を手に持った