シャンペン
三鞭酒

冒頭文

土曜・日曜でないので、食堂は寧ろがらあきであった。我々のところから斜彼方に、一組英国人の家族が静に食事している。あと二三組隅々に散らばって見えるぎりだ。涼しい夏の夜を白服の給仕が、食器棚(サイドボード)の鏡にメロンが映っている前に、閑散そうに佇んでいる。 「——寂しいわね、ホテルも、これでは」 「——第一、これが」 友達は、自分の前にある皿を眼で示した。 「ちっとも美味しくあり

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人倶楽部」1927(昭和2)年5月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日