わがごがつ
わが五月

冒頭文

五月は爽快な男児。ぴちぴち若い体じゅうの皮膚を裸で、旗のような髪の毛を風にふき靡(なび)かせつつ、緑の小枝を振り廻し駈けて行く五月。新鮮に充実して浄き官能の輝く五月。 近い五月は横丁の細道にもある。家の塀について右へ一つ、もう一遍右へ一つ曲ると、そこに五月の慎しい宝が人目にかくれ横わっている。右も生垣、左も生垣、僅か三尺ばかりの小道がそこを貫いているのだが、五月になると、小径は緑の王国だ

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1927(昭和2)年5月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日