たばたのさか |
田端の坂 |
冒頭文
芥川さんに始めておめにかかったのは、大正六年の多分三月頃のことだったと思います。まだ私が羽織を着ていた憶えがあるから。久米さんと一緒に或る午後遊びに見えました。『新思潮』がまだ久米さん方によって編輯されていた時分で、その時私は十九になった位のものでした。 芥川さんは、大学の制服の膝をきちんと座布団の上に坐って——確にあれは制服だったが、でも、大学を一体芥川さんは何年に出られたのかと思って
文字遣い
新字新仮名
初出
「文芸春秋」1927(昭和2)年9月特別号(芥川龍之介追悼号)
底本
- 宮本百合子全集 第十七巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年3月20日