いちぐう
一隅

冒頭文

洋傘だけを置いて荷物を見にプラットフォームへ出ていた間に、児供づれの女が前の座席へ来た。反対の側へ移って、包みを網棚にのせ、空気枕を膨らましていると、 「ああ、ああ、いそいじゃった!」 袋と洋傘を一ツの手に掴んだ肥った婆さんが遽しく乗り込んで来た。 「早くかけとしまいよ、ばあや、そら、そこがあいてるわよ、かけちゃいさえすればいいから……よ」 プラットフォームに立って送りに来

文字遣い

新字新仮名

初出

「作楽」お茶の水附属高女同窓会会報第三十九号、1927(昭和2)年12月7日発行

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日