さか |
坂 |
冒頭文
モスクワ滞在の最後の期間、私たちは或るホテルに暮していた。ホテルといっても、サボイのようなのではなく、お湯がほしくなると自分でヤカンを提げて下の台所まで出かけて行き、ボイラーから注いで来るような暮しぶりのホテルである。 部屋に大きなテーブルが二つあり、一つを私の友達が、もう一つの方を私がつかって、私のテーブルにはフランスで買って来た藍と黄色の格子縞のやすもののテーブル掛がかけてある。
文字遣い
新字新仮名
初出
「東京日日新聞」1935(昭和10)年1月28日号
底本
- 宮本百合子全集 第十七巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年3月20日