にっき |
日記 |
冒頭文
ある夜 細長い土間のところへ入って右手を見ると、そこがもう座敷で、うしろの壁いっぱいに箪笥がはめこんである。一風変った古風な箪笥で、よく定斎屋がカッタ・カッタ環を鳴らして町を担いで歩いた、ああいう箪笥で、田舎くさく赤っぽい電燈の光に照らされ、引手のところの大きい円い金具が目立っている。郵便局の家であった。 目立つ箪笥を背にして、ずらりと数人の男が並んで坐っている。きちんと膝をそろえ
文字遣い
新字新仮名
初出
「文芸」1935(昭和10)年3月号
底本
- 宮本百合子全集 第十七巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年3月20日