よしのかげにそえて
葭の影にそえて

冒頭文

昨年の六月母が逝いて後、私たちの念願は生前母が書きのこしていた様々の思い出や日記類を、一年祭までにとりまとめ一冊の本として記念したいと云う事であった。 生前母は文筆を好んだ。若い頃にはよく読書をもした。特に昭和三年、三男英男を失ってから、母は以前にもまして自身の情熱を文章として表現したいという熱望を抱くようになったとともに、既にその頃は糖尿病が重り、視力衰弱して読書執筆については全く不如

文字遣い

新字新仮名

初出

「葭の影」中條葭江(母)追悼録のあとがき、1935(昭和10)年7月発行

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日