わがちち
わが父

冒頭文

二月二日に父の葬儀を終り、なか一日置いた四日の朝、私は再びそれまでいた場所へ戻った。初めてそこへ行った時と同じ手続で或る小部屋へ入り自分の着物は一切脱いで、肌へつける物から洗いさらした藍い物ずくめになり、沢山並んで夫々番号のついている扉の一つの中に入って坐った。 私が、全く突然、父の死を知らされたのは一月三十日の午後三時頃のことであった。遮断されていた生活からいきなり激動の三日間を暮し、

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1936(昭和11)年6月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日