きんいろのくち |
金色の口 |
冒頭文
ある年、秋が深くなってからヴェルダンへ行ったときのことがこのごろ折にふれて幾度か思い出される。ヨーロッパ大戦のとき、ヴェルダンは北部フランスの激戦地の一つとして歴史にのこされた。 ヴェルダン市とその周囲の山々につづく村落とはまったく廃墟となっていて、市役所の跡などはポンペイの発掘された市のとおり、土台だけが遺されている。 一望果しなく荒涼とした草原を自動車は疾駆し次第に山腹より
文字遣い
新字新仮名
初出
「読売新聞」1937(昭和12)年9月23日号
底本
- 宮本百合子全集 第十七巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年3月20日