ふじだな |
藤棚 |
冒頭文
あちこちに廃墟が出来てから、東京という都会の眺望は随分かわった。小石川の白山から、坂の上にたって、鶏声ケ窪の谷間をみわたすと、段々と低くなってゆく地勢とそこに高低をもって梢を見せている緑の樹木の工合がどこかセザンヌの風景めいた印象をあたえる。巣鴨から来た電車がゆっくり白山を下りて指ケ谷へ出る、その辺で左手の裸の崖を眺めると、くすんだ赤い煉瓦の塀のくずれたところがあったりして、やはり荒廃のうちに一種
文字遣い
新字新仮名
初出
「学友会雑誌」誠之小学校、1939(昭和14)年6月16日執筆、掲載月日不詳
底本
- 宮本百合子全集 第十七巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年3月20日