しょぶつてんしんのしょう
諸物転身の抄

冒頭文

これまで、今時分の東京の乾物屋の店先にこんなに種々様々にあしらわれて鰊(にしん)が並んだことがあっただろうか。 身がきにしんの束がそこにあるわきで、小僧と娘さんとが、その身がきにしんにドロリとした黒いたれをつけて焼いている。その匂いは細雨の降る夕暮の歩道に立ちこめているが、同じ店先には鰊一尾まるのまま糠づけにしたものも売っている。 今年はどうも鰊が目につくと思っていたら、北海道

文字遣い

新字新仮名

初出

「都新聞」1941(昭和16)年2月26日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日