はぐるま
歯車

冒頭文

一 レエン・コオト 僕は或知り人の結婚披露式(ひろうしき)につらなる為に鞄(かばん)を一つ下げたまま、東海道の或停車場へその奥の避暑地から自動車を飛ばした。自動車の走る道の両がはは大抵松ばかり茂つてゐた。上り列車に間に合ふかどうかは可也(かなり)怪しいのに違ひなかつた。自動車には丁度僕の外に或理髪店の主人も乗り合せてゐた。彼は棗(なつめ)のやうにまるまると肥つた、短い顋髯(あごひげ)の持ち主

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋」1927(昭和2)年10月

底本

  • 現代日本文学大系 43 芥川龍之介集
  • 筑摩書房
  • 1968(昭和43)年8月25日