へいばこうそうのひと
兵馬倥偬の人

冒頭文

私(わたくし)は舊幕府の家來で、十七の時に京都二條(でう)の城(今の離宮)の定番(ぢやうばん)といふものになつて行つた。江戸を立つたのが、元治(ぐわんぢ)元年の九月で、例の蛤御門(はまぐりごもん)の戰(たゝかい)のあつてから二個月(かげつ)後(のち)の事である。一體私は親子の縁が薄かつたと見えて、その十七の時に兩親に別れてからは、片親と一緒に居る時はあつたが、兩親と一緒に居ることは殆んどなかつた。

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「文章世界 第四巻第一一号」博文館、1909(明治42)年8月

底本

  • 明治文學全集89巻 明治歴史文學集
  • 筑摩書房
  • 1976(昭和51)年1月30日