あいぶ |
愛撫 |
冒頭文
猫の耳というものはまことに可笑(おか)しなものである。薄べったくて、冷たくて、竹の子の皮のように、表には絨毛(じゆうもう)が生えていて、裏はピカピカしている。硬(かた)いような、柔らかいような、なんともいえない一種特別の物質である。私は子供のときから、猫の耳というと、一度「切符切り」でパチンとやってみたくて堪(たま)らなかった。これは残酷な空想だろうか? 否。まったく猫の耳の持っている一
文字遣い
新字新仮名
初出
「詩・現実」1930(昭和5)年6月
底本
- 檸檬・ある心の風景
- 旺文社文庫、旺文社
- 1972(昭和47)年12月10日