かこぜ |
過去世 |
冒頭文
池は雨中の夕陽の加減で、水銀のやうに縁だけ盛り上つて光つた。池の胴を挟んでゐる杉木立と青蘆(あし)の洲(す)とは、両脇から錆(さ)び込む腐蝕(ふしょく)のやうに黝(くろず)んで来た。 窓外のかういふ風景を背景にして、室内の食卓の世話をしてゐる女主人の姿は妖(あや)しく美しかつた。格幅(かっぷく)のいゝ身体に豊かに着こなした明石(あかし)の着物、面高(おもだか)で眼の大きい智的な顔も一色に
文字遣い
新字旧仮名
初出
「文芸」1937(昭和12)年7月
底本
- 日本幻想文学集成10 岡本かの子
- 国書刊行会
- 1992(平成4)年1月23日