うみべしょうきょく(せんきゅうひゃくにじゅうさんねんにがつ――) |
海辺小曲(一九二三年二月――) |
冒頭文
海辺の五時 夕暮が 静かに迫る海辺の 五時 白木の 質素な窓わくが 室内に燦く電燈と かわたれの銀色に隈どられて 不思議にも繊細な直線に見える。 黝みそめた若松の梢に ひそやかな濤のとどろきが通いもしよう。 午後五時 いまだ淡雪の消えかねた砂丘の此方 部屋を借りる私の窓辺には 錯綜する夜と昼との影の裡に 伊太利亜焼の花壺 タランテラを打つ古代女神模様の上に 伝説のナーシ
文字遣い
新字新仮名
初出
「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日
底本
- 宮本百合子全集 第十八巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年5月30日