かわ |
川 |
冒頭文
かの女の耳のほとりに川が一筋流れてゐる。まだ嘘をついたことのない白歯(しらは)のいろのさざ波を立てゝ、かの女の耳のほとりに一筋の川が流れてゐる。星が、白梅の花を浮かせた様に、或(ある)夜はそのさざ波に落ちるのである。月が悲しげに砕けて捲(ま)かれる。或る夜はまた、もの思はしげに青みがかつた白い小石が、薄月夜(うすづきよ)の川底にずつと姿をひそめてゐるのが覗(のぞ)かれる。 朝の川波は蕭条
文字遣い
新字旧仮名
初出
「新女苑」1937(昭和12)年5月
底本
- 日本幻想文学集成10 岡本かの子
- 国書刊行会
- 1992(平成4)年1月23日