かんだをさんぽして
神田を散歩して

冒頭文

あるきわめて蒸し暑い日の夕方であった。神田(かんだ)を散歩した後に須田町(すだちょう)で電車を待ち合わせながら、見るともなくあの広瀬中佐(ひろせちゅうさ)の銅像を見上げていた時に、不意に、どこからともなく私の頭の中へ「宣伝」という文字が浮き上がって来た。 それはどういうわけであったかよくわからない。その日は特別な「何々デー」というのでもなかったし、途中で宣伝の行列や自動車に出会った覚えも

文字遣い

新字新仮名

初出

「解放」1922(大正11)年8月

底本

  • 寺田寅彦全集 第三巻
  • 岩波書店
  • 1960(昭和35)年12月7日