エジプトざっき |
埃及雑記 |
冒頭文
一 埃及の入口ポートセイドの騷々しい港に船を降りて、一望百里鹽澤の外、何者も眼の前に見えない茫漠たる景色に接した私と倉田君とは、何處にナイルの恩惠たる黒土(カムト)の埃及が横つてゐるかを疑つたのである。これは丁度二十年前、私が太沽の沖合に船が著いて、何處に支那の國があるかを怪しんだと同じ感じであつた。併し暫くすると兩側に青い畑も見え、椰子と駱駝も現はれて來た。其の間に博覽會場の壞れた樣な家と
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「文藝春秋」1929(昭和4)年8月
底本
- 青陵随筆
- 座右寶刊行會
- 1947(昭和22)年11月20日