あさくさがみ |
浅草紙 |
冒頭文
十二月始めのある日、珍しくよく晴れて、そして風のちっともない午前に、私は病床から這(は)い出して縁側で日向(ひなた)ぼっこをしていた。都会では滅多に見られぬ強烈な日光がじかに顔に照りつけるのが少し痛いほどであった。そこに干してある蒲団(ふとん)からはぽかぽかと暖かい陽炎(かげろう)が立っているようであった。湿った庭の土からは、かすかに白い霧が立って、それがわずかな気紛れな風の戦(そよ)ぎにあおられ
文字遣い
新字新仮名
初出
「東京日日新聞」1921(大正10)年1月
底本
- 寺田寅彦全集 第三巻
- 岩波書店
- 1997(平成9)年2月5日