ざっき(いち)
雑記(Ⅰ)

冒頭文

一 日比谷から鶴見へ 夏のある朝築地(つきじ)まで用があって電車で出掛けた。日比谷(ひびや)で乗換える時に時計を見ると、まだ少し予定の時刻より早過ぎたから、ちょっと公園へはいってみた。秋草などのある広場へ出てみると、カンナや朝貌(あさがお)が咲きそろって綺麗(きれい)だった。いつもとはちがってその時は人影というものがほとんど見えなくて、ただ片隅のベンチに印半纏(しるしばんてん)の男が一人ねそ

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1922(大正11)年

底本

  • 寺田寅彦全集 第三巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年2月5日