からすとしょうか
鴉と唱歌

冒頭文

帝劇でドイツ映画「ブロンドの夢」というのを見た。途中から見ただけではあるし、別に大して面白い映画とも思われなかったが、その中の一場面としてこの映画の主役となる老若男女四人が彼等の共同の住家として鉄道客車の古物をどこかから買って来るという事件がある。そうして、若い娘と若い男二人がその奇抜な新宅の設備にかかっている間に、年老(としと)った方の男一人は客車の屋根の片端に坐り込んで手風琴(てふうきん)を鳴

文字遣い

新字新仮名

初出

「野鳥」1935(昭和10)年2月

底本

  • 寺田寅彦全集 第四巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年3月5日