ざっきちょうより(に)
雑記帳より(Ⅱ)

冒頭文

一 今年の春の花の頃に一日用があって上野の山内へ出かけて行った。用をすました帰りにぶらぶら竹(たけ)の台(だい)を歩きながら全く予期しなかったお花見をした。花を見ながらふと気の付いたことは、若いときから上野の花を何度見たかしれない訳であるが、本当に桜の花を見て楽しむ意味での花見をすることが出来るようになったのはほんの近年のことらしい、ということである。それ以前には花を見るつもりで行っても花よ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学」1934(昭和9)年8月

底本

  • 寺田寅彦全集 第四巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年3月5日