ろくがつ |
六月 |
冒頭文
まあ、なんと言ったらいいだろう、そうだ、自分の身体(からだ)がなんのこともなくついばらばらに壊(くず)れてゆくような気持であった。身を縮めて、一生懸命に抱きしめていても、いつか自分の力の方が敗(ま)けてゆくような——目が覚(さ)めた時、彼は自分がおびただしい悪寒(おかん)に襲われてがたがた慄(ふる)えているのを知った。なんだかそこいらが湿っぽく濡(ぬ)れている。からだのどこかが麻痺(しび)れて知覚
文字遣い
新字新仮名
初出
「早稲田文学」1913(大正2)年12月
底本
- 日本の文学 78 名作集(二)
- 中央公論社
- 1970(昭和45)年8月5日