むだい(じゅうに) |
無題(十二) |
冒頭文
○西側の腰高窓の床の間よりに机を出して坐った。そこからは灰色の雨雲が走る空の下に 頂を濃い霧につつまれた小高い山とその手前の樹木の茂った丘陵とが見晴せた。狭い田圃をへだてたこちら側は 山陽線海岸まわりの幾条もの線路になっている。一時間に三つ位の割で通る。雨音を立てている前の家のトタン葺の屋根のはずれと、そのとなりの家の、燃火のけむりが低く雨の中に流れ出している土壁との間にある空地ごしに扇形にひらい
文字遣い
新字新仮名
初出
「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日
底本
- 宮本百合子全集 第十八巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年5月30日