たはらしのはんざい |
田原氏の犯罪 |
冒頭文
一 重夫(しげお)は母のしげ子とよく父のことを話し合った。それは、しげ子にとっては寧ろどうでもいい問題であったが、重夫にとっては何かしら気遣わしい、話さないではおれない問題であった。 実際、重夫の父田原弘平は凡てに於て観照家でそして余りに寛大であった。然しそれはいいことであったかも知れない。ただ重夫が気遣わしく思ったのは、物にぶつかってゆく力を欠いだ父のそうした生活態度を通して
文字遣い
新字新仮名
初出
「黒潮」1917(大正6)年8月
底本
- 豊島与志雄著作集 第一巻(小説Ⅰ)
- 未来社
- 1967(昭和42)年6月20日