れもん |
檸檬 |
冒頭文
えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧(おさ)えつけていた。焦躁(しょうそう)と言おうか、嫌悪と言おうか——酒を飲んだあとに宿酔(ふつかよい)があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやって来る。それが来たのだ。これはちょっといけなかった。結果した肺尖(はいせん)カタルや神経衰弱がいけないのではない。また背を焼くような借金などがいけないのではない。いけないのはその不吉な塊だ。以前私を
文字遣い
新字新仮名
初出
「青空」1925(大正14)年1月
底本
- 檸檬・ある心の風景
- 旺文社文庫、旺文社
- 1972(昭和47)年12月10日