おかめ
阿亀

冒頭文

電車通りから狭い路地をはいると、すぐ右手に一寸小綺麗な撞球場があった。電車通りに面した表の方は、煙草店になっていて、各国産の袋や缶の雑多な色彩が、棚の上に盛り上っていた。その店から、磨硝子の戸を距てて、撞球台が二つ並んでいる広間となり、奥は障子越しに、家の人達の住居になっていた。 ゲーム取りの女が二人いた。——客の少ない時はそのうちの年上の方が、客の多い時はお上さんが、煙草店の方に坐って

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸春秋」1925(大正14)年10月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年12月15日