よく

冒頭文

飲酒家の酔い方には、大体二つの型がある。一つは、外部から酔っていくもので、先ず膝がくずれ、衣服の襟元がだらしなくなり、手付があやしくなり、眼付が乱れ、舌がもつれてくる、がそのくせ、意識はわりに混濁せず、どこかしっかりした理性的心棒が根強く残っている。謂わば、運動神経のみが重にアルコールに侵されるらしい。そしても一つは、内部から酔っていくもので、先ず意識の混濁と分裂が初まり、連想作用が突飛になり、想

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1932(昭和7)年2月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第三巻(小説Ⅲ)
  • 未来社
  • 1966(昭和41)年8月10日